厚生文教委員会行政視察 2025(令和7)年10月27日から10月29日まで
2025(令和7)年10月27日から10月29日まで、福井県鯖江市、兵庫県西宮市及び福岡県苅田町立与原小学校を視察しました。
眼育さばえプロジェクトについて【福井県鯖江市】
取組の背景、目的

眼鏡フレーム製造において国内シェア9割を誇る福井県鯖江市では、「めがねのまちさばえ」の地域ブランドを更に拡充するシティプロモーションの一環として、「眼育(めいく)さばえプロジェクト」を2019(令和元)年から本格的にスタートさせた。「眼育」の発信を通じて、幼児期の視力不良の早期発見や目の健康推進、眼鏡やレンズの大切さを周知することに注力している。
取組の内容と現在の状況
- 小学生の視力低下が社会全体で注目され始めた2015(平成27)年から、目の屈折検査を3歳児健診に導入
- 新潟医療福祉大学との連携による幼児期の視覚検診の充実及び検査体制の強化
- 「視力簡単スクリーニングキット」や「スポットビジョンスクリーナー」など、幼児期に楽しく、簡単に視力を検査できる多くの仕組みの整備
- 学校での取組として、日常的に視力低下を予防するための「目の健康体操」の実施
- 「眼育さばえ」の啓発活動として、デジタル機器の使用時間などに関するアンケート調査の実施
- 保育士や学校教諭との懇談会による知識の共有と、年代間の切れ目ない取組の実践
- 高齢者向けの「目の健康づくり教室」の開催
コロナ禍によって十分に取り組めなかった期間があったものの、取組の開始から6年が経過し、今後は、これまでに得られた知見をまとめていく段階とのことであった。他方で、学校現場における活動の在り方や、様々な視力検査で再検査となった場合の家庭へのアプローチの2点において、効果的な対応を今も模索している状況がうかがえた。
大府市への反映・所感
本市でも、「近視予防プロジェクト」として視力低下の予防に取り組んでおり、親和性の高い取組として学ぶことは多い。違いとしては、近視予防プロジェクトは医学的見地からのアプローチであるのに対し、眼育さばえプロジェクトは主に教育的見地からのアプローチである。「行政にできることはきっかけづくりと動機付け」という考えに基づいた、こどもを始めとした市民が取り組みやすいよう、入口を広げる取組(幼児期の視力検査体制の充実)は本市でも大いに参考になると思われる。
目の異常を早期に発見することに注力している点も注目すべきポイントである。鯖江市では、本市でも実施している3歳児健診時の屈折検査を、4歳児健診と就学前健診でも実施している。こどもの成長期において、基本的な視機能が完成するのは8歳頃までと言われていることから、検査体制の充実を通じて視力異常の早期発見に全力を挙げる鯖江市の姿勢は、本市としても大いに参考とすべき点と言える。
その上で、乳幼児期から就学後にかけて継続的に視力低下の予防に取り組む仕組みの構築も極めて重要である。また、この取組により浮上した課題の一つに、早期検診で要再検査となった際、再受診になかなかつながらないという面があるとうかがった。その一因として、眼科が地域に少ないことが挙げられた。この点から、地域医療との間で充実した連携体制の整備が必要と考えられる。
学校現場で日常的に行える「目の健康体操」などの取組についても、ぜひ実践に向けて検討してはどうか。
リーディングDXスクール事業について【兵庫県西宮市】
取組の背景、目的

「GIGAスクール構想」の第1期を受け、兵庫県西宮市においても、1人1台端末環境の整備やデジタル機器による一斉授業、オンラインによる授業配信などが実践されてきたが、次の段階として、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両立、校務DXによる教員の働き方改革などを目指し、取り組んでいる。
取組の内容と現在の状況
- GIGA端末の標準仕様に含まれる汎用的ソフトウェア、クラウド環境の活用を重視
- 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両立を目指す取組
- 「情報活用能力の育成と活用」、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けたGIGA環境の活用」、「自治体の実態に応じて更に活用促進を図る具体的な取組」、「上記の実践内容についての地域内外への普及」を掲げる。
「個別最適な学び」とは、一人一人の学習者がそれぞれに自らの課題を見つけて取り組むことであり、「協働的な学び」とは、他者と協議しながら考え方や解決策を共有し、学びを深めることである。特に後者では、「学んだことの即時共有」を強く推進している。また、多様性の包摂という観点からも、「自分で選択、決定する学習」の実践が行われている。
大府市への反映・所感
前提として、デジタル化とDXは別の概念であることを改めて踏まえる必要がある。デジタル化とは、従来の手段やツールをデジタルに置き換えることである。教育におけるデジタル化は、これまでのような一斉指導を効果的、効率的にするためのものである。一方、DXの本質は、授業の姿や在り方そのものを「ガラリと変える」ことにある。教師の役割が、説明から助言、提案等へと変化し、授業の手法も大きく変質することから、教育についての本質や理念への理解が重要となる。本市でも、1人1台端末環境をいち早く整え、その活用方法についての知見は着々と積み上げられてきた。その上で、今後は、こうした知見やノウハウを生かし、どのような教育環境を整えることがこどもたちにとって有益であるかを、「DXとは何か」を踏まえて検討する観点が重要となる。
まず、教育を「ガラリと変える」ことが目指すべき本質であることを、しっかりと認識することが重要である。先に述べたとおり、「デジタル化」でなく「DX」であることが、これからの教育現場の変革における前提であり、本市においても、この点を改めて確認することを強く推奨する。今後、教員が設定した目標へ向かってこどもを導く「単線型授業」から、一人一人が自らの学び方を選択して進められる「複線型授業」への変化が、一つの形になるものと考えられる。その上で、それぞれの学びを互いに共有する「学びの即時共有」を、授業において、どのように取り込んでいくかも重要なポイントになる。
一方で、その具体的な実践を進める上で評価基準の設定が課題になると考えられる。西宮市では、授業の冒頭に「今日は〇〇ができたらA(評価)」という形で明示するとのことであり、「個別最適な学習」を実践していく上では、こうした評価手法の検討も今後の重要なポイントとなると思われる。
生成AIパイロット校における取組について【福岡県苅田町立与原小学校】
取組の背景、目的

福岡県苅田町では、「リーディングDXスクール事業」における「生成AIパイロット校」の指定を受け、小学校1校、中学校1校で教育DXの実践に取り組んでいる。「生成AIパイロット校」とは、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を踏まえた「効果的な教育実践の創出」を通じ、今後の更なる議論に資する知見を蓄積するために、教育活動や校務における生成AI活用におけるパイロット的な取組を進めるため、文部科学省が指定する学校である。
取組の内容と現在の状況
- 新津中学校が2023(令和5)年度から、与原小学校は2024(令和6)年度から指定を受け、教育DXの実践的な取組を進めている。
- 「まずは管理職が生成AIを活用しよう」と、5日間の合宿を開催
- 教職員の負担軽減、教育活動の質の向上、学校全体の業務効率化を目的として、生成AIを導入。「生成AIの校務利用の定着」、「教育活動への試行的活用」、「意思決定支援ツールとしての活用」の三つを2024(令和6)年度の目標に掲げ、校内研修やファクトチェックの徹底、プロンプトエンジニアリングによるリスク低減等を実施
- 校務DXにおいて生成AIの有効な使用法を模索し、質の高いプロンプトを共有。これにより、授業計画や資料作成などの事務的な仕事において、効率性が大きく向上
こうした取組による成果の一方で、担当者によるチェックが必要となるハルシネーション(※)への対策が、効率化との両立において課題となっている。しかしながら、校務DXでは課題となる反面、授業における活用の面では、ハルシネーションはむしろ「起こり得るもの」と位置付け、それを情報リテラシーや生成AIの性質への正しい理解を深める機会として活用している。
※ハルシネーションとは、生成AIが事実に基づかない情報を生成する現象
大府市への反映・所感
「生成AIパイロット校」として、学習における活用にまで踏み込んでいる点が、特徴的な取組であると感じた。
本市でも「個別最適な学び」の実現に向けた取組が進められているが、「協働的な学び」の実践も合わせて、どのように両立していくかはいまだ課題であると考える。また、生成AIの活用を進めていく上でのハルシネーションや思考の均一化への対応については、それらを問題として捉えるのではなく、学習の質を高める機会と捉える向き合い方などは、大いに参考になると思われる。
教員の役割が「知識の伝道者」から「学びの設計者・伴走者」へと進化し、「生徒と向き合う時間が教員の働きがいを生み出す」との捉え方は、教育DXにおける教員の働き方改革の位置付けを整理する上での重要な示唆となった。良質なプロンプトや業務活用の実践事例を教員間で共有できる仕組みも、校務DXにおける効果的な取組として、本市にもぜひ取り入れたい内容であった。
学校授業における学びの形が「単線型」から「複線型」へ進化していくことは、もはや必然として受け止め、本市でも今後、具体的な実践の手法をどう組み立てていくかを検討する上での参考として、その変化のイメージを報告書の中で少しでもわかりやすく示すことができるよう、前向きな議論に生かしていきたい。
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