第31話 おかえりなさい、スタインウェイ
「で、なんで俺までついてく必要があるんだ?」
この暑い中、俺はいきなり桃花に愛三文化会館に呼び出された。なんでもホールにあるグランドピアノ『スタインウェイ』 がオーバーホールから帰ってきて、今日はそれを弾くことができるらしい。
「こんな機会滅多にないんですよ?それに梨花のピアノを聴いてほしくて。習ってるだけあって、上手なんですよ?」
「梨花ちゃんピアノ習ってたのか?」
「うん!」
「初耳だ…。ところで、何でそのオーバーホール?をしたんだ?」
「はい。ここのスタインウェイは開館した平成3年から一度もこの場所を離れたことがないんです。だけど老朽化の影響で、今年の4月からオーバーホールをしたそうです。大体2カ月くらいかかったんですって」
「そんなにかかったのか?」
「大きい部品から細かい部品まで全て行いましたから、それくらいかかりますよ。弦の部分も調律師さんたちと協力して行ったんですから。それとホール内に反響板が設置されているんですよ」
「反響板?」
「音をきれいに響かせる板です。これがあるかないかでホール内の響きが違うんですよ」
「なんか、すごいな。一生懸命な気持ちというか、このスタインウェイに対する愛を感じるな。お前なんでそんなに詳しいんだ」
「ユーチューブの公式チャンネルの動画を見たからです。先輩も詳しく知りたかったらご覧になってください」
「お姉ちゃんたちー!時間だよー ! 」
「あ、梨花が呼んでます。急がないとー」
「お姉ちゃんっ、一番に弾けるんだって!」
「ラッキーじゃん、良かったね」
「わぁ、すっごくきれい!ぴかぴかしてる!」
近くで見るスタインウェイはすごくきれいだった。ボディーは光沢で艶々していて音楽についてはよくわからないけどそれだけで良い音がしそうな気がする。
「まーお兄ちゃん、お姉ちゃん。今から弾くからちゃんと聴いててね!」
「はいはい。ちゃんと聴くよ」
「聴くの初めてだな…」
シンと静まり返った、雑音一つ聞こえないホール中に優しい音色が響いた。体全体に音が響いてくる。これがさっき言ってた反響板の効果か。それにしても梨花ちゃん、ピアノうまいな。この暑い中呼び出されたのも許してしまいそうだ。演奏してる梨花ちゃんも幸せそうな顔をしてる。その顔を見てると俺までうれしくなりそう、って俺は保護者か。そうこう考えてたら演奏が止まった。弾き終わったのかな。
「どうだった?上手だった?」
「すごい上手だったよ。聴かせてくれてありがとう」
「えへへ」
「それなら今日連れてきた私にも感謝してくださいよ!」
「はいはいありがと」
「気持ちがこもってません!」(10月1日号へ続く)
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